FIREしたら年金はいくら減る?早期リタイアと年金の現実
FIREすると厚生年金の加入期間が短くなるため、将来の年金は確実に減ります。目安は「年収500万円なら、1年早く辞めるごとに年金が年約2.7万円減る」。この記事では概算式と年収別の早見表で「いくら減るか」を見積もり、減った年金を前提にFIRE計画へ織り込む方法を整理します。
1.FIREで年金が減る仕組み
公的年金は2階建てです。1階が20〜60歳の全員が加入する国民年金(基礎年金)、2階が会社員・公務員が上乗せで加入する厚生年金で、FIREの影響を強く受けるのは2階部分です。
- 国民年金(基礎年金):40年(480月)の納付で満額(2025年度で月約6.9万円)。60歳までは退職後も納付義務が続くため、FIRE後も自分で払い続ければ満額に近づけられます。つまり1階は、本人の選択しだいで守れる部分です。
- 厚生年金(報酬比例部分):会社員として働いた期間と報酬で決まります。在職中は保険料を払う代わりに加入月数が積み上がりますが、退職した時点で積み上げは止まります。早く辞めるほど加入月数が短くなり、受給額はその分だけ確実に少なくなります。あとから任意で払い足して取り戻す仕組みはありません。
「FIREすると年金がゼロになる」わけではありませんが、「働き続けた場合と同じだけもらえる」わけでもありません。では2階部分は具体的にいくら減るのか、次章で計算します。
2.いくら減る?概算式と年収別の早見表
厚生年金(報酬比例部分)の概算は次の式です(平成15年4月以降の期間)。
厚生年金の年額 ≒ 平均年収 × 5.481 / 1000 × 加入年数
→ 1年働くごとに「年収 × 約0.55%」だけ年金(年額)が増える
つまり「何年早く辞めるか」で減る額が見積もれます。
| 平均年収\早期リタイア | 10年早い | 15年早い | 20年早い |
|---|---|---|---|
| 400万円 | 年 約22万円減 | 年 約33万円減 | 年 約44万円減 |
| 500万円 | 年 約27万円減 | 年 約41万円減 | 年 約55万円減(月約4.6万円) |
| 600万円 | 年 約33万円減 | 年 約49万円減 | 年 約66万円減 |
| 700万円 | 年 約38万円減 | 年 約58万円減 | 年 約77万円減(月約6.4万円) |
※賞与込みの平均年収ベースの概算です。標準報酬には上限があり、将来の制度改定でも変わります。正確な見込額は「ねんきんネット」で、退職時期を変えた試算ができます。
具体例:30歳FIREと60歳定年でいくら違うか
より正式な概算式は「平均標準報酬額 × 5.481/1000 × 加入月数」(2003年4月以降の期間)です。平均標準報酬額とは、賞与も含めた現役中の報酬を月額に換算してならした金額のこと。これを30万円とし、22歳で就職した人が「30歳でFIREする場合」と「60歳まで勤める場合」を比べてみます。
| 30歳でFIRE | 60歳まで勤務 | |
|---|---|---|
| 厚生年金の加入期間 | 8年(96か月) | 38年(456か月) |
| 計算式 | 30万円×5.481/1000×96 | 30万円×5.481/1000×456 |
| 報酬比例部分(年額) | 約15.8万円 | 約75.0万円 |
| 月額換算 | 約1.3万円 | 約6.2万円 |
差は年約59万円(月約4.9万円)。これが終身で続くため、仮に65歳から90歳まで25年間受け取ると累計で約1,480万円の違いになります。ただしこれは2階部分だけの比較で、1階の基礎年金はFIRE後も60歳まで国民年金を納め続ければ、どちらのケースでも満額を確保できます。その方法を次章で整理します。
3.FIRE後の国民年金はどうする
会社を辞めると厚生年金から外れ、国民年金の第1号被保険者(自営業者などと同じ区分)として自分で保険料を納めることになります。納付義務は60歳まで続き、ここでの選択が1階部分(基礎年金)の将来額を左右します。主な選択肢は3つです。
| 選択肢 | 毎月の負担 | 将来の年金への反映 |
|---|---|---|
| 納付を続ける | 17,510円(2025年度) | 納付月数に応じて満額(月約6.9万円)に近づく |
| 全額免除を受ける | 0円 | 免除期間は満額の1/2のみ反映(2009年4月以降の期間) |
| 付加年金を上乗せ | 納付額+400円 | 年額で「200円×納付月数」が上乗せ |
数字で確かめましょう。仮に20歳から30歳までの10年(120か月)だけ納付し、残りの30年(360か月)を全額免除で通すと、基礎年金への反映は(120+360×1/2)÷480=62.5%。満額が月約6.9万円なら月約4.3万円です。免除は「ゼロにはならないが、満額からは大きく離れる」選択だとわかります。FIRE後の所得が低ければ免除が承認される可能性があり、あとから追納して将来額を回復する道もあります。
付加年金はもっと単純です。第1号被保険者が月400円を上乗せ納付すると、年金が年額で「200円×納付月数」増えます。10年(120か月)納めれば払う総額は48,000円、増える年金は年24,000円。受給開始から2年で払った分を回収でき、あとは長生きするほど得になる構造のため、納付を続けるなら合わせて検討する価値があります。
避けたいのは未納です。将来の基礎年金が減るだけでなく、障害年金・遺族年金の受給資格にも影響します。資産に余裕があるFIRE民は納付継続が基本形です。保険料負担を含めたFIRE後の固定費の全体像はFIRE後の税金と社会保険料をご覧ください。
4.繰上げ・繰下げの考え方
年金は原則65歳開始ですが、開始時期は60〜75歳の間で選べます。FIREの設計では、この「いつから受け取るか」も金額を動かす大きなレバーです。
- 繰上げ受給(60〜64歳):1か月早めるごとに−0.4%(2022年4月以降の制度)。60歳開始なら60か月×0.4%=−24%が一生続く。
- 繰下げ受給(66〜75歳):1か月遅らせるごとに+0.7%。70歳開始で+42%、最大の75歳開始なら84か月×0.7%=+84%。
| 受給開始年齢 | 増減率 | 本来月15万円の場合 |
|---|---|---|
| 60歳(繰上げ) | −24% | 月11.4万円 |
| 65歳(本来) | ±0% | 月15.0万円 |
| 70歳(繰下げ) | +42% | 月21.3万円 |
| 75歳(繰下げ) | +84% | 月27.6万円 |
損益分岐の単純計算
受取総額だけで比べた場合の分岐点も、単純な算数で出せます(税・社会保険料・運用益は無視した概算です)。
- 60歳繰上げ vs 65歳開始:繰上げは5年早く受け取れる代わりに毎年24%少ない。65歳開始の累計が追いつくのは65歳から約16年後、81歳ごろ。それより長生きするなら本来受給のほうが総額は多くなる。
- 70歳繰下げ vs 65歳開始:繰下げは5年間の空白がある代わりに毎年42%多い。累計が並ぶのは70歳から約12年後、82歳ごろ。それより長生きするなら繰下げが有利。
FIRE民は「資産の取り崩しで70歳前後まで橋渡しし、年金を繰下げて増やす」戦略と相性が良いとされます。終身で増えた年金は長生きリスクへの保険になるためです。ただし繰下げを待つ期間は取り崩しが重くなり、その間に暴落が来ると資産側の傷が深くなる裏面もあります。健康状態や資産の厚みも含め、自分に合う開始年齢は次章のようにシミュレーションで確かめるのが確実です。
5.年金込みでシミュレーションする
ここまでで「いくらもらえそうか」「いつから受け取るか」の見積もりがそろいました。最後にやるべきことは、その数字をFIRE計画に織り込み、資産が最後までもつ確率(生存率)がどう変わるかを確かめることです。当サイトのFIREシミュレーターは年金のような年単位の収入をスケジュールに織り込めるため、受給開始の年から取り崩しの負担が軽くなる流れをそのまま再現できます。
- 「ねんきんネット」で退職時期を反映した年金見込額を確認する
- シミュレーターの積立・取崩プランで「ライフプランで一括設定」→年金を考慮するを有効にする(または受給開始後の年の取崩額を、年金分だけ手で減らす)
- 「①年金なし」「②見込額どおり65歳開始」「③70歳まで繰下げ」の3パターンで生存率を見比べる
比較すると年金の効き方が立体的に見えてきます。年金は終身の収入なので、受給開始後は毎年の取り崩しがその分軽くなり、シミュレーション後半の生存率を押し上げます。繰下げで月額を増やすと90歳以降まで見据えた安心感は増しやすい一方、繰下げを待つ60代後半の取り崩しが重くなるため、リタイア直後の暴落には弱くなることもあります(シーケンスリスク)。この綱引きは頭の中だけでは結論が出ないので、確率で見比べるのが近道です。
年金は減るとはいえ、終身で受け取れる強力な収入源です。「年金ゼロ」で計画すると過剰に保守的になり、「満額」で計画すると楽観的になりすぎます。シミュレーターで見込額を入れた現実的な検証をおすすめします。
なお本記事は「年金がいくらになるか」に絞って解説しました。生活費全体と照らして老後の不足額を見積もる手順は老後資金はいくら必要?を、生存率など結果画面の読み方はシミュレーション結果の読み方をご覧ください。
この記事の執筆者:yamano(個人投資家・投資歴28年)
自身のFIRE計画を検証するために当サイトのシミュレーターを開発・運営。前提を明示し、根拠を確かめながら試算できる情報提供を方針としています。くわしくは運営者情報をご覧ください。
最終更新日:2026年6月12日