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シーケンスリスクとは?リタイア直後の暴落が危険な理由

FIRE後の資産寿命を大きく左右するのがシーケンス・オブ・リターンズ・リスク(収益率配列リスク)です。「平均リターンが同じでも、暴落が来る順番(タイミング)によって、資産が尽きる人と残る人に分かれる」というリスク。なぜそんなことが起きるのかを、具体例で解説します。

1.シーケンスリスクとは

シーケンスリスクとは、収益率が発生する「順番」によって資産の結末が変わるリスクのことです。とくに資産を取り崩しながら生活するリタイア後に強く効きます。

資産形成期(積み立てるだけの時期)には、暴落が早く来ても遅く来ても、最終的な平均リターンが同じなら結果はほぼ同じです。ところが取り崩し期には、暴落が「いつ来るか」で結末が大きく変わります。

2.同じ平均リターンでも結果が変わる例

資産3,000万円から毎年150万円(5%)を取り崩すケースで、「最初に暴落」と「最後に暴落」を比べてみます。リターンの中身(−30%が1回、好調年が複数)は同じで、順番だけが違います。

パターン1年目2年目以降長期的な結果
リタイア直後に暴落−30%+取り崩しその後に回復目減りした元本から取り崩すため枯渇しやすい
暴落が後半に来る好調+取り崩し後半に下落序盤に資産が増えるため耐えやすい

ポイントは、暴落と取り崩しが同時に起きると、資産が「安値で売られて」減ってしまうこと。一度大きく減った元本は、その後に相場が回復しても元の水準まで戻りにくくなります。これが「リタイア直後の暴落が最も危険」と言われる理由です。

3.数値で見るシーケンスリスク

「順番で結果が変わる」と言われても、直感的には信じにくいかもしれません。そこで、電卓ひとつで再現できる例を実際に計算してみます。条件は次のとおりです。

  • 初期資産:3,000万円
  • 取り崩し:毎年240万円(月20万円)を年初に引き出す
  • リターン:−30%・+10%・+20%の3つ。中身は同じで、順番だけを入れ替える

計算は「年初に240万円を取り崩す→残った資産にその年のリターンを掛ける」の順で統一します。たとえば暴落が先に来るシナリオの1年目は、(3,000−240)×0.7=1,932万円です。

A:暴落が先
のリターン
Aの年末資産B:暴落が後
のリターン
Bの年末資産
開始時3,000.0万円3,000.0万円
1年目−30%1,932.0万円+20%3,312.0万円
2年目+10%1,861.2万円+10%3,379.2万円
3年目+20%1,945.4万円−30%2,197.4万円

計算過程を書き出すと、シナリオAは(3,000−240)×0.7=1,932.0 →(1,932−240)×1.1=1,861.2 →(1,861.2−240)×1.2=1,945.4万円。シナリオBは(3,000−240)×1.2=3,312.0 →(3,312−240)×1.1=3,379.2 →(3,379.2−240)×0.7=2,197.4万円です。

経験したリターンの中身も、引き出した総額(720万円)もまったく同じなのに、3年後の資産にはちょうど252万円——1年分を超える生活費に相当する差がつきました。しかもこの差は、両者がその後同じ相場を歩んでも縮まりません。資産の差額部分にも毎年リターンが掛かるため、むしろ複利で開いていきます。

もし取り崩しがなければ、どちらの順番でも3年後は3,000×0.7×1.1×1.2=2,772万円で完全に同じです(掛け算は順番を入れ替えても答えが変わらないため)。つまり、順番が結果を変えるのは「途中で引き出す」からこそ。シーケンスリスクが取り崩し期に特有のリスクと呼ばれるゆえんです。

4.取り崩し期に特有のリスク

積み立て期に暴落が来ると、むしろ「安く買えるチャンス」になります(ドルコスト平均法の効果)。一方、取り崩し期の暴落は「安く売る」ことを強いられるため、ダメージが大きくなります。

同じ平均リターン・同じ取り崩し額でも、最初の5〜10年の相場がリタイア後の成否をほぼ決める、とも言われます。資産寿命は「平均」だけでは測れないのです。

5.歴史上のシーケンスリスク

順番の怖さは、机上の計算だけでなく実際の歴史にも表れています。当サイトが利用している1988〜2024年のMSCI ACWI(全世界株・円建て)の期間で、リタイアのタイミングが少しだけ違う2人を比べてみましょう。

2000年にリタイアした人

2000年は、ITバブル崩壊が始まる直前でした。世界株はそこから2002年までのおおよそ3年間、下落基調が続きます。この年にリタイアした人は、初日から「下がり続ける相場の中で取り崩す」最悪のパターンに入りました。資産が目減りした状態でようやく回復局面を迎えたと思ったら、わずか数年後の2008年にリーマン・ショックが直撃します。円建てのMSCI ACWIはこの1年だけで約−53%。リタイアから10年足らずの間に、2度の歴史的暴落を正面から浴びた形です。

2003年にリタイアした人

一方、ITバブル崩壊の下落が一巡した2003年にリタイアした人は、回復局面からスタートできました。リーマン・ショックが来るまでの数年間で資産のクッションを積み増せたため、同じ約−53%の下落に見舞われても、2000年リタイア組よりはるかに余裕をもって耐えられたのです。

2人の違いはリタイア時期が3年ずれていたことだけで、本人の努力や運用の巧拙とは関係ありません。そしてリタイアする時点では、自分がどちらのパターンを引くのかは誰にも分かりません。相場の天井や底を事前に当てることはプロにもできないからです。だからこそ、「運に頼らない備え」をあらかじめ仕込んでおくことが重要になります。

6.シーケンスリスクへの4つの備え

シーケンスリスクは「いつ暴落が来るか」を当てて避けることはできませんが、来ても致命傷にならない設計にすることはできます。代表的な4つの備えを、効果と注意点をセットで整理します。

① 現金クッションを持つ

生活費の2〜3年分を現金・預金で別枠にしておき、暴落が来た年は株式を売らずに現金から生活費を出す方法です。効果:先ほどの数値例で見た「安値での売却」そのものを回避でき、相場の回復を待つ時間を確保できます。注意点:現金部分は運用されないため、持ちすぎると長期のリターンを下げます。何年分が最適かの実測データは現金クッションとは?で詳しく検証しています。

② 取り崩し率そのものを下げる

年4%ではなく3.5%や3%に抑える、最も単純で確実な方法です。効果:取り崩し額が小さいほど暴落時に売る量も減るため、どんな順番の相場が来ても生存率が底上げされます。注意点:必要資産が増えます。年間支出の25倍で済む4%に対し、3.5%なら約28.6倍、3%なら約33.3倍が必要になり、リタイア時期が後ろ倒しになるトレードオフがあります(4%ルール参照)。

③ 定率(残高連動)の取り崩しを組み合わせる

毎年同じ金額ではなく、「その時点の資産残高の◯%」のように残高に連動させて取り崩す方法です。効果:暴落で残高が減ると取り崩し額も自動的に減るため、安値で大量に売ることがなくなり、計算上は資産が枯渇しにくくなります。注意点:暴落の年は生活費が大きく減るため、家計側にその変動を受け止める余地が必要です。定額・定率の使い分けは定額取り崩しと定率取り崩しの比較、暴落時だけ引き出しを絞るガードレール法などの折衷案は取り崩し戦略をご覧ください。

④ リタイア直前・直後だけ債券比率を上げる

「最も危険なのはリタイア前後の数年間」という性質を逆手に取った方法です。リタイアの数年前から債券や現金の比率を高めて守りを固め、危険な時期を無事に通過したら、徐々に株式比率を元に戻していきます。効果:ダメージが最大になるタイミングの暴落を和らげられます。下落時には債券側から取り崩すことで、株式の安値売却も避けられます。注意点:守りを固めた期間に株高が続いた場合、その利益は一部諦めることになります。また守りの期間を延ばしすぎると、今度は資産が育たないこと自体がリスクになります。

このほか、サイドFIREのように労働収入を少し残しておく方法も有効です。「暴落の年だけ取り崩しを止めて働く」という選択肢があるだけで、上の4つの備えすべての効果を底上げできます。

7.シミュレーションで「順番」を考慮する

シーケンスリスクは「平均リターン」だけを見る単純計算では見えません。だからこそ、相場の上下を何千通りもランダムに発生させて結果のばらつきを見るモンテカルロ・シミュレーションが役立ちます。暴落が早く来るケースも含めて、資産が尽きない確率(生存率)を確認できます。

当サイトのFIREシミュレーターはモンテカルロ法を採用し、暴落の「順番」も織り込んで資産寿命を確率で評価します。結果の読み方はFIREシミュレーション結果の見方もあわせてご覧ください。

この記事の執筆者:yamano(個人投資家・投資歴28年)
自身のFIRE計画を検証するために当サイトのシミュレーターを開発・運営。前提を明示し、根拠を確かめながら試算できる情報提供を方針としています。くわしくは運営者情報をご覧ください。

最終更新日:2026年6月12日