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【実測】定額と定率はどっちが長持ち?10,000通りで比較検証

「取り崩しは定額と定率どっちがいいのか」。理屈の比較は多くても、実際の数字での比較は意外と見つかりません。本記事では当サイトのシミュレーターで、同じ生活費の条件で両方式を10,000通りずつ実測しました。結論:定率は生存率がわずかに高く(+1ポイント未満)、最終資産は定額が大幅に大きい。そして方式の差より「取り崩し率を下げる」方が圧倒的に効きます

1.検証の条件と方式の定義

検証条件は次のとおりです(2026年6月実施)。取り崩し方式以外の条件はすべて揃え、方式だけを切り替えて比較しました。

項目設定
初期リスク資産6,000万円(現金は0円)
取り崩し期間50〜89歳の40年間
年間の生活費240万円・270万円・300万円の3水準(初期資産の4.0%・4.5%・5.0%)
利回りデータMSCI ACWI(全世界株・円建て)1988〜2024年の年次リターン37件
抽出方法37件からの復元抽出によるモンテカルロ法
試行回数各条件10,000試行×2回の平均
その他インフレ率0%・税引き前。年金などの収入は考慮しない

復元抽出とは、過去の年次リターンをくじ引きのように毎年引き直す方法で、同じ年が複数回出ることもあります。手法の詳細はモンテカルロ・シミュレーションの仕組みをご覧ください。

比較した2方式は、当ツールの仕様どおり次のように定義します。

  • 定額:毎年、生活費の金額をリスク資産から直接売却する。
  • 定率:毎年、リスク資産の一定割合(生活費÷初期資産)を現金に移し、生活費はその現金から支払う。資産が減った年は現金化される額も自動的に減る。

2.実測結果(生活費240・270・300万円)

年間生活費(対6,000万円)方式生存率最終資産の中央値
240万円(4.0%)定額89.4%約11.1億円
定率4.0%90.1%約6.8億円
270万円(4.5%)定額86.6%約10.0億円
定率4.5%87.3%約5.9億円
300万円(5.0%)定額82.9%約8.5億円
定率5.0%83.9%約4.9億円

※生存率は試行ごとに±0.5ポイント程度ぶれます。中央値が非常に大きいのは、過去37年の世界株実績(年平均+11.5%)が高めだったことの反映です。将来の成果を保証するものではなく、インフレ・税も考慮していません。

3.読み解き:定率は「少し折れにくく、増えにくい」

  • 生存率は定率がわずかに高い(+0.7〜1.0ポイント):資産が減った年は現金化する額も自動的に減るうえ、好調な年に積み上がった現金が暴落時の緩衝材になるためです。
  • 最終資産の中央値は定額が大幅に大きい:定率方式は毎年資産の一部を現金化するため、複利で運用され続ける資産が減っていきます。資産を増やしたまま残したい人には不利に働きます。

つまり両者はトレードオフです。「枯渇への強さをわずかに買うか、上振れの大きさを取るか」の選択であり、どちらかが一方的に優れているわけではありません。生活費の安定性など実生活面の違いは取り崩し戦略の比較をご覧ください。

4.定率が枯渇しにくい仕組みと、その代償

定率の生存率がわずかに高い理由を、もう一段かみくだきます。定率方式の核心は、資産が減ると取り崩し額も自動的に減ることです。6,000万円の4%は240万円ですが、暴落で資産が4,200万円に減れば、その4%は168万円。取り崩しに自動でブレーキがかかります。毎年「残高の4%」を取る限り、翌年には必ず残高の96%が残るため、理論上、資産はゼロになりません

暴落をはさんだ4年間の推移例

簡単な数値例で比べてみましょう。初期資産6,000万円、年初に1年分を取り崩し、残りに市場リターンがかかると単純化して仮定します(万円未満は四捨五入)。

市場リターン定額:取崩額定額:年末資産定率4%:取崩額定率4%:年末資産
1年目−30%240万円4,032万円240万円4,032万円
2年目−10%240万円3,413万円161万円3,484万円
3年目+20%240万円3,808万円139万円4,014万円
4年目+20%240万円4,282万円161万円4,624万円

4年後の資産は定率の方が約340万円多く残り、下落への耐性がはっきり表れます。しかし注目すべきは取崩額の列です。定率では2年目161万円・3年目139万円と、生活費が最大4割強も削られています。資産が守られる代わりに毎年の生活費が読めなくなる。これが定率の代償です。家賃や保険料などの固定費は相場に合わせて下げられないため、「139万円で1年暮らせるか」は、資産推移とは別の現実問題として残ります。

5.なぜ生存率の差が1ポイント未満なのか

「定率は理論上枯渇しない」のであれば、生存率はもっと大差がついてもよさそうです。それでも実測の差が1ポイント未満にとどまる理由は、定額が破産するシナリオで定率に何が起きているかを見ると分かります。

定額が破産するのは、リタイア直後に大きな下落が続くような厳しいシナリオです(シーケンスリスク)。同じ相場を定率で進むと、たしかに資産はゼロになりません。しかし資産が3分の1の2,000万円まで減れば、取り崩し額も3分の1の年80万円まで減っています。帳簿の上では「生存」でも、月7万円弱で暮らせないのであれば、それは破産はしていないが生活が成立していない状態です。

つまり、定額の「破産」と定率の「極端な生活費の減額」は、同じ悪いシナリオの別の表れ方にすぎません。生存率(資産がゼロにならなかった割合)という物差しで見ると定率が有利に見えますが、「生活水準を維持できた確率」という物差しに替えれば、両者の差はさらに縮まるはずです。だからこそ本記事の結論は「方式の差は小さい」となります。生存率という指標の性質はシミュレーション結果の見方で解説しています。定率を選ぶ人は、生存率に加えて悲観ケースで取り崩し額がいくらまで下がるかを必ず確認してください。

6.方式の差より「取り崩し率」が効く

同じ実測データを縦に読むと、もっと重要な事実が見えます。

  • 方式の変更による生存率の差:+0.7〜1.0ポイント
  • 生活費を300万円→240万円(5.0%→4.0%)に下げたときの差:+6.5ポイント前後
  • 現金クッション600万円を併用したときの差:+2.2ポイント実測記事

優先順位は「①取り崩し率を下げる > ②現金クッションを持つ > ③方式を選ぶ」。方式選びに悩む前に、まず取り崩し率と現金の備えを固めるのが効率的です。

7.実用的な折衷案:下限付き定率とガードレール

「定額は枯渇が怖い、定率は生活費が読めない」。実務では、この2つの欠点を打ち消し合う折衷案がよく使われます。

下限付き定率(フロアつき)

基本は定率で取り崩しつつ、「ただし年180万円(月15万円)は下回らない」のように下限を設ける方法です。好調時は定率のブレーキが働いて取り崩しすぎを防ぎ、暴落時も生活の最低ラインは守られます。下限額で取り崩す局面では資産の減りが純粋な定率より速くなるため、「絶対に枯渇しない」という理論上の保証は失われますが、そもそも生活が成立しない水準まで支出を減らせない以上、現実的な妥協点と言えます。下限額は、家賃・保険・通信費などの固定費に最低限の変動費を足して積み上げて決めるのが基本です。

ガードレール法

定額をベースに、資産残高が想定の範囲(ガードレール)を外れたときだけ取り崩し額を増減させる方法もあります。平時の生活費は安定したまま、相場が悪いときだけ支出にブレーキがかかる設計です。各ルールの仕組みと向き不向きは取り崩し戦略の比較で解説しています。

また、方式の工夫とは別系統の防御策として、暴落の年だけ株を売らずに現金で生活する現金クッションもあります。同条件の実測で生存率を約2ポイント押し上げており、方式変更より効果は大きめでした。現金の持ち方・置き場所の詳細は同記事に譲ります。

8.結論の使い方:自分の条件で再現する

実測が示す実践的な結論は「方式選びの優先度は低い」です。生存率を本気で上げたいときに手を付ける順番は、次のようになります。

  1. 取り崩し率を下げる:実測では、取り崩し率を0.5ポイント下げるごとに生存率が約3ポイント改善しました(定額で5.0%→4.5%が+3.7ポイント、4.5%→4.0%が+2.8ポイント)。この傾向からは、4.0%→3.5%でも方式変更(1ポイント未満)を大きく上回る改善が見込めます。下げる手段は「生活費を減らす」か「同じ生活費に対して資産を厚めに用意する」かの2つです(必要額の考え方はFIREに必要な資産額)。
  2. 防御策を足す:現金クッションなど(7章末尾)。
  3. 最後に方式を好みで選ぶ:資産を大きく残したいなら定額、枯渇への保険を少しでも厚くしたいなら定率、生活の安定も欲しいなら下限付きの折衷案(7章)。

そのうえで、結論はご自身の条件で確かめてください。手順は簡単です。

  1. シミュレーターの詳細条件で「取崩方式」を定額/定率で切り替える
  2. ほかの条件(資産・期間・生活費)を揃えて、それぞれ実行する
  3. 生存率・最終資産・悲観ケースの推移を比較する(結果はURLで共有可能)

本記事の条件はあくまで一例です。資産額・期間・利回りの前提が変われば、生存率も方式間の差も変わります。

この記事の執筆者:yamano(個人投資家・投資歴28年)
自身のFIRE計画を検証するために当サイトのシミュレーターを開発・運営。前提を明示し、根拠を確かめながら試算できる情報提供を方針としています。くわしくは運営者情報をご覧ください。

最終更新日:2026年6月12日