モンテカルロシミュレーションとは?FIREでの使い方と4%ルール検証
FIREや老後資金のシミュレーションでよく登場する「モンテカルロ法」。難しそうな名前ですが、考え方はシンプルです。なぜ平均利回りの計算では足りず、確率で考える必要があるのかを解説します。
1.モンテカルロシミュレーションとは
モンテカルロシミュレーションとは、結果が運(確率)に左右される問題を、ランダムな試行を何千・何万回も繰り返して、結果の分布から答えを見積もる統計手法です。名前はカジノで有名なモナコの「モンテカルロ」に由来します。
資産運用に当てはめると、「毎年のリターンを過去の実績分布からランダムに選び、取り崩しながら資産推移を計算する」という1回の試行を、条件を変えずに1万回繰り返します。そして「1万回のうち何回、資産が尽きずに最後まで残ったか」を数えれば、生存率や破産確率が求められます。
1回ごとに「暴落が来る順番」や「好況・不況の並び」が変わるため、1万通りの"あり得る未来"を一気に検証できるのが特徴です。
2.名前の由来と歴史
「モンテカルロ」という一風変わった名前は、カジノで有名なモナコ公国のカジノ地区「モンテカルロ」に由来します。ルーレットやサイコロのように「偶然の試行を何度も繰り返して答えを探る」手法だから、というわけです。
この手法を開発したのは、数学者のスタニスワフ・ウラムとジョン・フォン・ノイマンらです。1940年代のアメリカで、数式では解けない複雑な物理計算に取り組んでいた2人は、「乱数を使って何度も試行し、結果を数える」というアプローチでこの壁を突破しました。ウラムは病気の療養中にトランプの一人遊び(ソリティア)の勝率を考えていて、「理屈で解くより、実際に何回も並べて成功した回数を数えるほうが早い」と気づいたことが着想のきっかけだった、と伝えられています。
誕生からおよそ80年。現在では物理学・気象予測・金融工学など幅広い分野で標準的な手法として使われており、個人の資産運用シミュレーションへの応用もその延長線上にあります。最先端の科学を支えてきた由緒ある手法を、家庭のFIRE計画にもそのまま使える時代になった、ということです。
3.なぜ平均利回りでは不十分なのか
「年平均5%で運用」と聞くと、毎年きれいに5%ずつ増えるイメージを持ちがちです。しかし実際の株価は、ある年は+30%、別の年は−40%と激しく振れます。平均が同じでも、暴落が来る順番によって結果は大きく変わります。
特に、リタイア直後に暴落が来ると、取り崩しと値下がりが重なって資産が大きく減り、その後相場が回復しても元本が足りなくなります。これをシーケンスリスクと呼びます。平均利回りの単純計算ではこのリスクを表現できないため、確率で多数のシナリオを試すモンテカルロ法が有効なのです。
同じ「平均5%」でも、未来は1通りではない
振れの影響を、簡単な数値例で確かめてみましょう。次の2つの世界は、どちらも年平均(足して年数で割った算術平均)のリターンが+5%です。
| 世界A:毎年きっちり+5% | 世界B:+20%と−10%を交互に繰り返す | |
|---|---|---|
| 年平均リターン | +5% | +5%((+20−10)÷2) |
| 2年間での倍率 | 1.05×1.05=約1.10倍 | 1.2×0.9=1.08倍 |
| 30年後の1,000万円 | 約4,320万円(1.05の30乗≒4.32倍) | 約3,170万円(1.08の15乗≒3.17倍) |
平均はまったく同じなのに、30年後には約1,150万円もの差がつきます。値動きの振れ(ボラティリティ)が大きいほど複利の効率が落ちるためです。つまり「平均5%で30年」という一本線の計算は、無数にありえる未来のうちもっとも都合のよい1通りだけを見ていることになります。
モンテカルロ法は発想が逆です。数千〜数万通りの「ありえた未来」を生成し、その分布を見ます。「うまくいけばここまで増えるが、運が悪ければここまでしか残らない」という幅ごと把握できることが、単純計算との決定的な違いです。
4.FIREでの使い方
FIRE設計では、モンテカルロ法で次のような問いに答えられます。
平均値の一本線ではなく、「悲観(下位10%)・標準(中央値)・楽観(上位10%)」のように幅で結果を捉えられるのが、意思決定に役立ちます。
5.過去データで4%ルールを検証する
4%ルールは米国の過去データに基づく経験則です。これを自分の条件・別の市場データで検証するのにモンテカルロ法が使えます。手順は次のとおりです。
- 初期資産を入力し、取り崩し額を「資産の4%」に設定する
- 運用期間(リタイア年齢〜想定寿命)を設定する
- 「▶ 実行」を押し、生存率を確認する
- 取り崩し率を3.5%・4.5%などに変えて、生存率がどう変わるか比較する
こうして「自分のケースでは4%で十分か、もっと保守的にすべきか」を、一般論ではなく数字で判断できます。
6.当ツールの仕組みとデータ
当サイトのFIREシミュレーターは、デフォルトで過去37年(1988〜2024年)のMSCI ACWI(全世界株・円建て)の年次リターン実績を使用します。この37年分のリターンを並べ替え・抽出して将来シナリオを生成し、10,000通りの試行から生存率・破産確率・資産寿命を算出します。想定利回り(年利データ)は画面上で1年ごとに自由に編集でき、S&P500など別の前提や、自分の想定利回りでの検証も可能です。
過去37年には、ITバブル崩壊(2000〜2002年)、リーマンショック(2008年 −52.9%)、コロナ後の上昇など、大きな暴落と回復の両方が含まれています。これにより、現実に起こり得る相場の振れ幅を踏まえたシミュレーションができます。
7.当サイトでの計算手順
シミュレーターが内部で行っていることは、突き詰めると次の3ステップだけです。
| ステップ | やること | イメージ |
|---|---|---|
| STEP 1 未来を1万通り作る | 1988〜2024年の37個の実績年次リターンの中からランダムに選んで並べ、「将来のリターン系列」を10,000通り生成する | あるシナリオでは2年目にリーマン級の暴落が来て、別のシナリオでは好調な年が10年続く |
| STEP 2 取り崩しを当てはめる | 10,000通りのそれぞれに、入力された積立・取り崩しの計画を1年ずつ適用して資産残高の推移を計算する。途中で残高がゼロになったシナリオは「枯渇」として記録 | 同じ計画でも、引いたリターン系列しだいで資産カーブはバラバラになる |
| STEP 3 結果を数えて集計する | 期間の最後まで資産が残ったシナリオの割合=生存率を求める。残高の分布から中央値や悲観ケース(下位10%)なども計算する | 「10,000回中9,500回成功」なら生存率95% |
難しい数式で未来を予言しているわけではなく、「過去に実際へ起きた値動きの組み合わせ」を1万回試して、結果を数えているだけ——仕組み自体はとても素朴です。だからこそ、出てきた数字の意味も直感的に理解できます。
8.モンテカルロ法の限界
強力な手法ですが、万能ではありません。誠実に使うために、限界も押さえておきましょう。
- 過去データに依存する:当サイトで生成されるシナリオは、あくまで「1988〜2024年に実際に起きたリターン」の組み合わせです。この37年に存在しなかった種類の事象——たとえばそれを超える規模の暴落や、何十年も続く低成長——は、シナリオの中に登場しません。
- 数字の外にある出来事は扱えない:急激なインフレ、税制や年金制度の大きな改正、本人の病気や家族構成の変化といったライフイベントは、リターンの並べ替えでは表現できません。
- 確率は保証ではない:生存率95%は「ほぼ大丈夫」に見えますが、裏返せば20回に1回は失敗するという意味です。しかもその95%という数字自体が上記の前提の上に成り立っており、「実際の失敗確率がちょうど5%」と保証するものではありません。
おすすめは、「未来の予言」としてではなく「条件を変えたときの比較ツール」として使うことです。「取り崩しを月1万円減らすと生存率が何ポイント上がるか」といった差分の情報は、前提の多少のズレに対して比較的頑健です。
9.結果をどう読むか——生存率90%と95%の違い
シミュレーターを回すと、生存率という1つの数字が出てきます。では、生存率90%と95%のどちらを目指すべきでしょうか。
差はわずか5ポイントに見えますが、失敗確率で見ると10%と5%——2倍の差です。一方で、生存率を5ポイント引き上げるには資産の積み増しや支出の削減が必要になり、リタイアはその分遅くなります。つまりこれは「どちらが正しいか」の問題ではなく、失敗したときに立て直せるかどうかで決めるトレードオフです。
- 再就職や収入アップの余地が大きい40代なら、生存率90%でリタイアして、相場が悪ければ働いて軌道修正する、という戦略も合理的です
- 働いて挽回する選択肢が乏しい状況なら、95%以上を目安にする慎重さが見合います
また、生存率100%にこだわりすぎないこともポイントです。考えうる最悪のシナリオまで完全にカバーしようとすると必要資産は際限なく膨らみ、いつまでもリタイアできなくなります。生存率・中央値・悲観ケースを組み合わせた具体的な判断手順はFIREシミュレーション結果の見方で詳しく解説しています。
まずは一度、ご自身の条件でFIREシミュレーターを回してみてください。平均利回りの計算では見えなかった「暴落の順序」の影響が、確率としてはっきり見えてきます。
この記事の執筆者:yamano(個人投資家・投資歴28年)
自身のFIRE計画を検証するために当サイトのシミュレーターを開発・運営。前提を明示し、根拠を確かめながら試算できる情報提供を方針としています。くわしくは運営者情報をご覧ください。
最終更新日:2026年6月12日